歯科訪問診療料は、往診に行くだけで830点(8,300円)です。一般社会の常識からみても、他の歯科診療点数からみても、異様に高額です。

往診して、義歯のリベース(補正・調整)を行えば、医療費は30分で2万円を越します。

しかも、往診を依頼される、ほとんどの方は寝たきりの状態で、福祉医療の対象者。つまり、自己負担金は無料。

政策立案者は、福祉医療を充実させる目的で、いわば、「えさ」を目の前にぶら下げたのではないかと疑いたくなります。

私は、開業当初は、月に2回くらい往診していました。しかし、今は、自宅には行きません。歯科のない総合病院に入院されている方の場合にだけ往診に行くようにしました。

内科の往診とは異なり、歯科の往診は危険を伴う処置をすることが多いのです。

ノルウェーのオスロ大学歯学部には、日本にはない「老人歯科」という部門がありました。診療室は老人ホームの中にありました。治療よりも、口腔ケアに主眼をおいていました。

日本の歯科教育は、「健常な成人」を対象として治療することを教育してきました。診療報酬体系も、何かの処置をしなければ、十分な診療点数となりません。

ロンドン大学のEastman Dental Instituteは、正式名称をEastman Dental Institute for Oral Health Care Scienceといいます。治療ではなく、「口腔ケアの科学のための研究所」なのです。

我が国の歯科医療も、口腔ケアの普及に目を向けなければならないのかもしれません。