医療制度ランキング

ニューズウィーク日本版 2007.6.6.号 13頁のWorld Viewの記事からの引用です。

「WHO(世界保健機関)のランキングによれば、最も優れた医療制度をもつ国はフランス。アメリカは37位で、歯医者のいないコスタリカ(35位)より低い。」

アメリカの医療には二面性があるようです。

歯科医療の視点からみると、アメリカでは歯の神経をとる処置(根管治療)の治療費は、10万円以上します。治療費を負担できない人たちは抜歯を選ぶことになるようです。以下の歯科治療費の比較表は、「いまからはじめる口腔ケア」(学建書院)141ページからの引用です。

この表をみると、アメリカとイギリス、フランスとスイスには、類似性があるように思います。

エックス線標準とは、口の中にいれて撮影する小さなレントゲン写真です。日本では451円、アメリカでは12,600円。笑い出したくなるような違いです。

イギリス・ドイツからみえてきた日本の歯科医療のこれから
平成19年4月号の歯界展望という開業歯科医を読者とした雑誌に、「究極の包括化 イギリス歯科医療改革」という報告書が掲載されています。矢野正明先生が著者です。これを読まれて日本との相違に驚かれた歯科医は多いと思います。

参考文献の最初に、私の「英国の歯学教育システムについて」が引用されています。ありがたいことです。

最終段階の頃に矢野先生からメールで相談を受けて、参考資料などを送付しました。短期間の訪英でよくあれだけの調査をされたと感心しました。

私たち歯科医も、国民も、海外の歯科医療の状況を知るべきだと思います。この国の医療状況の問題点を探すために。

2006年4月29日〜5月8日までの10日間の視察旅行で、248ページに及ぶイギリス・ドイツの歯科医療の状況を知ることができる貴重な資料が作成されました。

  発行:東京歯科保険医協会 Tel03-3205-2999
  発効日:2007年3月25日
  定価:4000円

この本の中の一部は、歯界展望に掲載されています。

究極の包括化 イギリスの歯科医療改革
矢野正明先生
歯界展望 平成19年4月号

ドイツ歯科医療改革
呉橋美紀先生
歯界展望 平成19年5月号

読んでみましたが、非常に難解です。その理由の一つは、多くの紙面がインタビューの会話を記載したものだからです。それも非常に長文です。

インタビューする日本人歯科医と回答する英国・ドイツの歯科医の間に通訳が介在していますから、その通訳部分での意思疎通の困難さもあるように思います。

英国が、医療政策を試行錯誤している状況は、実際に1999年にロンドンにおりましたので、よく理解できます。それが、さらに、わけのわからない3バンド制になったという?

EU統合によるEU圏内のほかの国からの流入してくる歯科医はさらに増えて、英国は混乱ているのでしょうか?


ロンドン市街にあるGeneral Dental Coucil (GDC)で25ポンドで買ってきた報告書です。購入する際に、最後の1冊だという説明がありました。EU圏内18カ国の歯科状況がまとめられています。これは、GDCがまとめた公式の報告書です。日本では、入手困難な資料でしょう。

例えば、フィンランドについてはA4サイズ7ページ記載されています。目次を見ると、Key facts, Government and healthcare in Finland, Oral healthcare in Finland, Dentistry in Finland, Training and registration, Specialists,Auxiliaries, Working in private practice, Working in the PublicDental Service, Working in Hospitals, Working in Universities and Dental Faculties, Other useful information.

各国の歯科医師の分野や教育状況などが掲載されています。興味のある方にはコピーを送付いたします。
The Royal College of Surgeons of Englandが作成した歯科医の専門医にはどのようなものがあり、その資格の修得にはどのようにすればいいのかということについて記載してあります。

日本の専門医資格を修得するのは非常に困難です。修得しても、その資格を維持する条件も難しいのです。各学会が個別に資格をどのようにして取ることができるかについて規則を作成しています。この本は、すべての歯科関連の資格修得方法を記載しています。資格修得のためのいいガイドブックです。
日本では、歯科医師が取得できる資格には、医学博士、歯学博士だけしかありませんが、英国には、多種類の資格があります。それについてのガイドブックです。

英国では、大学院のコースが、実に多彩です。半年コースのフルタイム・パートタイムのコースも用意されています。多くの歯科医に資格をとらせていこうという前向きな姿勢があるように思います。
米国の歯科医療

親しい女性教授がハーバード大学に国費留学しています。ある日、歯の治療のために帰国するから治療してほしいという趣旨のメールが届きました。

米国の歯科医療費は、日本への往復の旅費をだして帰国して、歯の治療をしても、その方が安くつくのです。

何度かのメールのやり取りで、どのような歯の状態なのかわかりましたので、根管充填までしてもらって、それから先の治療は帰国されてからに、と提案しました。1本の歯の神経をとり、被せるだけで、数十万円になります。

この女性教授は、毎日新聞の山口県版に「ボストン便り」というコラムを執筆されています。ご自身の米国での歯科医療に当初は、その高額さに驚かれていましたが、その後、その医療の充実ぶりに感心されたようです。

「ボストン便り」は、まるで米国の歯科医療の状況報告のようです。あれは新聞社は困惑しているのではないかと案じます。

根管治療専門医の存在

米国には根管治療専門医がいます。

根管治療とは、歯の神経(歯髄)を除去して、それに代わる材料を歯髄内につめる処置のことを言います。根管治療を行うと、その歯の73%に根尖病巣ができるという報告があります。実際、日常診療の経験からも、そのくらいの頻度だろうと思います。

日本の保険診療では根管治療に十分な治療時間をとっていては医院経営ができない状況が、この73%という高率の病巣出現の背景にあると思います。米国では1歯の根管治療に10万円以上かかります。

日本の歯科医療の特徴の一つと私は思うのですが、現実には、十分なトレーニングを受けていないのに、小児歯科、矯正歯科、口腔外科などの標榜は自由にできる現状があることです。日本は、なんでもできるスーパーマンのような歯科医が理想と考えているのではないでしょうか。それは無理な話です。

歯科医療の専門化、細分化が、米国や英国では進んでいます。先進国ならではのシステムと思います。